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一生忘れられないプロポーズ

プロポーズは、女性にとって人生で最も幸せを感じる瞬間の一つ、であるべき。
常日頃から結婚に人一倍の夢と憧れを抱いていた私には、こんなシチュエーションでプロポーズされたい、という理想がありました。
それは特別なことではなく、どの女性もそうされたら嬉しいと思うようなごく一般的なこと。
二人の記念日に綺麗な夜景の見えるレストランでいつもより少し高めのディナーを食べて、デザートが出されたタイミングで「僕と結婚してください」という言葉と共に婚約指輪が……。
こんな理想を抱いているということは、お付き合いしていた彼にも当然知らせてありました。
私はプロポーズがとても重要だと思っている、人生に一度の、二人だけの忘れられない瞬間だから、と。
ところが、私が彼から受けたものはそれとは真逆のものでした。
夜景が見えるどころか、海も山も見えず全然おしゃれでない、デートに使うとは思えないような小さな立ち飲み屋。
その日は二人の記念日でもなければイベントの日でもなく、まさかプロポーズされるとは微塵にも思っていない私は当然ジーパンにTシャツという普段着姿。
「ちょっと一杯飲んで行こう」と言う彼に付き合って、仕事帰りのサラリーマンに紛れて焼き鳥を片手に焼酎を飲み、さあ帰ろうかと言ったまさにそのときだったのです。
彼はポケットの中から、色あせたイヤリングを出して「結婚しよう」と言ったのです。
箱にさえ入れられていないイヤリングは、中古のものであることは一目瞭然でした。
何かの冗談だと思った私は苦笑いしてそれを受け取りましたが、彼の表情が真剣であることに気が付いた瞬間、悲しくてその場から走って帰ったのでした。
泣き腫らした目で帰宅した私を見て、母は驚いて何があったのかを尋ねました。
私がイヤリングを見せてその出来事を話すと、母はとても驚き、涙を流して「そういうことだったのね。
今すぐ彼に電話して、オーケーしなさい」と言うのです。
唖然とする私に、母から聞いたのは衝撃の事実でした。
彼が私にしたことは、日にちも店もシチュエーションも、全てが父が母にしたものと同じだったのです。
そしてイヤリングは母の物で、少し前に母に当時の状況を笑い話で聞いていた彼が、そのイヤリングを借りてまでした「再現」だったのです。
父は若い頃、とても婚約指輪が買える余裕のあるような暮らしをしていなかったそうです。
いつか稼げるようになったら必ず素敵な指輪を買って見せるからと、イヤリングだったのです。
私も彼と一緒にこの話を聞いていたのに、すっかり忘れてしまっていたのでした。
すぐさま彼に会いに行くと、彼は少し残念そうな顔で「失敗だったかな」と言いました。
そして「驚いて、喜んでくれると思っていたんだ。ごめんね」と、私の指にダイヤモンドのついた指輪をはめてくれたのです。
私はポケットからイヤリングを出して、耳につけました。
そして「私と、結婚してください」と、心の底から彼に言いました。
憧れていたものとは全く違っていたけれど、理想よりも何倍も心に残る、とても素敵なプロポーズでした。
イヤリングは母から私に引き継がれ、私の大切な宝物になりました。

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